違う方が死んだ
2026/09/18公開
――酷いリンチだった。
誰かが引きつった苦笑いの声で呟く。
何としても手に入れたかった拠点を制圧し、昨晩の陣は浮かれていた。
一部で酒も振る舞われ、上機嫌な声が月明かりを騒がす。
あちらの言葉が分からない分、気楽でいい。
硬い甲羅で傷んだ剣を投げ捨て笑った。
長引いた戦線の終わりによって、喜びとともに抑圧されたものが解放される。
ただ、誰もが、生き延びたことを安堵する。
突然、“戦力”であるはずの異性に向けられる暴力。
いつも穏健な、性別のない種族も、巻き込まれる。
一度お開きになった宴。
深夜の闇で、感情が毒を吐く。
曇天の下。
物資を整理する手を止めて、また誰かが囁く。
――最初に殴り返したのは、あの大きい方だった。
数々の鎧の隙間から見える、離れた岩陰。
鍛えられた体躯の亡骸を、何羽もの鳥が遠巻きに見ている。
亡骸の前。
地面に膝を折った大きなガルカ。
白いたてがみが風に揺れる。
身動きしなかった彼が、おもむろに手を伸ばす。
地面を、手でえぐる。
素手で穴を掘り始める背中。
ブラウンの瞳。
未熟に見せるその顔が、じっと眺める。
陣中を通り抜ける風が黒髪を揺らす。
「雨になりそうだな」
不意に、隣りで大あくびをしたヒュームの戦士が話しかけてくる。
「まったく、ついてないぜ」
気だるげに。
あとがき
二軍スピンオフ『違う方が死んだ』でした。これで、アハピの物語は終わりです。
長い間見守っていただき、本当にありがとうございました。
それではまた、どこかで。