言わせた言葉
土砂降りの雨の中、別の隊が帰還した。
昼間だと言うのに暗い。
何となく、陣地周辺の斜面に目が行く。
無意識に兆候を警戒する、ブラウンの瞳。
黒髪から雫が落ちる。
激しい雨音の中。
声を張る男女が泥を散らしながらやって来る。
「――おい、スティユ! 待てって!」
金髪の女性の行く手を阻む、同族の男性。
焦りの目が一瞬、後方を見る。
視線の先には――黒翼の赤い旗。
「あなたが言えないなら、私が言うわ!」
「落ち着けよ!」
濡れた金髪を乱暴に払った彼女の瞳が、こちらを見る。
姿を見つけた一瞬、張り詰めていたものがわずかに揺らぎ、すぐに引き締まる。
歩み寄ってきた。
「……街を見た?」
問う彼女の後ろで、男性がすがるような目をしている。
そんな戦士の前に立ち、スティユは身体の横で拳を握った。
「うちの人たちは『略奪のせいだ』って言ってた。けど、絶対におかしいの! 」
「あんまり騒ぐなよ」
「届いているはずのものが明らかにない! 他の場所から盗んでくるしかないの!そもそも街になんて、届いてないのよ!」
「おい、滅多なことを――」
「もう騎士に頼むわ!」
男性の言葉を遮り、振り返って叫んだ。
「あっちの方がまだ“誇り”があった……」
口を開く男性を制するように被せる。
「中にいたことがあるから分かるの!」
「もうよせ……!」
男性がスティユの細い肩を掴む。
それを振り払う彼女の目元が朱に染まる。
絶え間なく水滴が落ちる黒髪は、じっと動かずに二人を見つめる。
強い雨の音。
スティユが、泣き声に似た息遣いを濁す。
「……ねぇ、マキューシオ」
ずぶ濡れの彼女が、足元に視線を突き刺す。
唇を噛み、声を絞り出した。
「こんな雨の中……彼女たちは、どうやって明日を待てばいいの?」
返ってくる言葉を、待つように。
沈黙が、濡れた地面に落ちる。
水音だけの間。
マキューシオは、じっと、逃げずに受け取る。
しかし、理解した上で、彼の切り捨てる声が告げる。
「今は、正すことより、戦争を終わらせることだ」
金髪が小さく跳ねた。
青い瞳と、わずかに開いた唇が、何かを訴える。
彼女を見つめたまま、続ける。
「君たちが獣人軍を押し返した。だから、街は焼かれずに済んでいる」
なおも訴えかけるスティユの瞳を、ブラウンの瞳が見つめ返す。
一瞬たりとも逃げない。
むしろ――すべてを渡せと、告げるかのように。
感情に弾んだ呼吸が、雨音の中で冷えていく。
スティユの細い肩が、わずかに落ちた。
「……意気地なしなのね、あなたも」
言っている言葉と、瞳に映った感情は、まったく異なるもので。
それすらも受け止めるように、マキューシオは沈黙を置く。
俯くと、金髪からまとまって雫が地面に零れ落ちる。
そのまま踵を返し、引き返していくスティユ。
向かっていた赤い旗にも、背を向けて。
男性は大きく息を吐き、助かったと、こちらに仕草で伝える。
泥を跳ねながら彼女を追っていく。
黒髪を抜け、頬を伝った雨水が、顎先から落ちる。
遠くで、雨音を押し退けるように警笛が鳴った。