危険なお兄さんは好きですか?

2004/06/14公開

ああ、この気持ちは一体何だろう?

どこからともなく現れた美しい白馬が、私の目に眩しく映る。

力強く草原を駆けるその姿は、まさに確かな光。

こんなにも美しい想い―――。

胸をときめかすその輝きを、私は忘れることができない。


………けれど、その白馬は、またどこかへ行ってしまった。


どこへ行ってしまったんだ?

私は探さなくてはならない。

お前をいつも傍において、その美しさを毎日楽しみたい。


待っておいで、私の白馬よ。

私は必ずお前を捕らえてみせる。


キリ番2000hit セイラ様に捧げます。
リクエスト内容「変態の一日」

~危険なお兄さんは好きですか?~



起床すると決めていた時刻。
ぱちりと瞬きをし、そのまま大の字の体勢でじっと天井を見つめる。
視界にかかる自分の金髪が、瞬きをする度に長い睫毛が触れ、そわそわと揺れた。
数時間ぶりの瞬きに、瞳が歓喜の声をあげているようである。

他に気配を感じない。
どうやら、モーグリはいまだに実家に帰ったままのようだ。
薄暗い部屋の中、窓の外から聞こえてくる早朝からの街の賑わい。

久々に戻ってきた自分の部屋は、やはり最高の寝心地だった。
長めの金髪をかき上げながら、ゆっくりと身を起こす。
テーブルから足を下ろして立ち上がると、昨夜帰宅した際に引っ張り出したポストの中身が、部屋中に散らばっているのが目に入った。
アイテムやら素材やら、うんざりするほどの量が押し込まれており、差出人の確認もせず、手当たり次第に取り出したものだ。

一番邪魔だったのは金。
複数に分かれていたものをまとめようとしたが、面倒になり、結局部屋の隅に無造作に積み上げたままだ。
整頓は、いずれ誰かに任せるとして。 自分は早々に、簡単な身支度を始めることにした。



   *   *   *



ドアが三回叩かれる。

「トントントン、何の音?お父さんが帰ってきた音。あーよかった☆」

ドアが三回叩かれる。

「トントントン、何の音?オバケが来た音。あーよかった☆」

ドアが三回叩かれる。

「トントントン、何の音?風の音
 きゃぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!!」
「うるせぇよ!!!!」

怒声と共に、内側からドアが蹴り破られた。
高速回転しながら吹っ飛ぶドアを、ローディはひらりと身をかわしてやり過ごす。

「……なんだね、ダンがノックしろと言ったから、今日はノックしてやったのに」
「うぜぇ、お前無限にうぜぇよ」
ダンはローディに指を突きつけながらそう言い、吹っ飛んだドアの方へ大股で歩いていった。
道行く人々がちらちらとこちらを見る。その視線が痛い。
そんなダンのストレスなどどこ吹く風で、ローディは唇に人差し指を当てて言った。
「どーしてぇ、俺様はこんなに好きなのに」
ダンがドアを拾い上げて部屋に戻ると、ローディもすかさずその後をついてくる。
ダンはそんな変態を完全に無視し、モーグリに『直しといてくれ』と言ってドアを手渡した。
初めてのことではないのか、モーグリはその依頼を素直に承諾する。

ダンの部屋はいつも片付いている。
だが、今朝は珍しく少し物が出ていた。
整頓途中か、あるいは合成作業でもしていたのかもしれない。

ローディは当然のように入室し、勝手に椅子に座った。
「久々に組んでみて、ダンも感じなかったのか?やっぱ俺様達、最高のコンブだって!」
「『コンビ』な」
「ダンの腕前を野良の連中に提供するなんて勿体無いってぇ~。どっかの詩人が言っておったぞ。『偉大な天才は、他の偉大な天才によってつくられる。』―――俺様がその偉大な天才だ!!」
力説しながら、ローディはテーブルを勢いよく叩いた。
散らかった物を片付けていたダンは、歯ぎしりしながらうんざりと顔を上げる。
「いいか変態、もう一度言ってやる。俺はお前と手を組むつもりはない。お前の良い労働力として使われるのは御免だ」
「いいじゃん、いいじゃん労働力」
「良くねぇよ」
ローディはテーブルに頬杖をついて、しれっと言い放つ。
ダンはそのテーブルの脚を勢いよく蹴った。
動いたテーブルにバランスを崩され、ローディの顎が頬杖から落ちる。
「俺の何がそんなに気に入ったんだか知らねぇがな、お前と深く関わるつもりはねぇんだよ。前に言った通り、俺には俺の目標がある。だから付き纏おうが、しつこく勧誘しようが、おかしな手紙を送りつけようが無駄だ」
「きひっ、手紙読んだのか」
「ああ。有り得ないほど気色悪い内容の手紙だったなオイ。『必ず捕らえてみせる』……脅迫状みたいなもんじゃねぇか!」
吐き捨てるように言いながら、ダンは物品整理を再開する。
ローディは顎をテーブルに乗せたまま、背を向けたダンをじっと見つめた。

―――まったく、思い通りにならん男よ。

“総帥”

――――と、頭の中に直接声が響く。
リンクシェルだ。

“本日も、Dと行動を共になさるんですか?
“おはようございます。Aが、傘下に下るそうです”
“総帥、ここ数日ダボイが特定のパーティに荒されているようで、Y氏から依頼が来ています。いかがなさいますか?”

三者三様、誰ひとりとして譲る気配もなく、リンクシェル越しにほぼ同時に言い切ってくる。
騒音のような情報の波に包まれながらも、ローディは微動だにせず、口だけを動かした。

「うむ、Dは今一番欲しいものだからな。きっひっひ、良い事だ。それじゃあ有りっ丈のガルカで囲んでおけ☆」

「一体何の話をしてるんだお前は。っつーか最初のDって絶対俺のことだろ

わざとなのか何なのか、リンクシェルの会話をそのまま口に出したローディに、ダンが眉をひそめて振り返る。

“左様でございますか。まったく、Dが羨ましい限りです”
“近い内に、お目通りを願いたいとのことですが”
“御意。では本日、実行致します。それでも……という場合は、いかがなさいますか?”

「きっひっひ!よきにはからえ。後日、全員ダボイ集合なり」

「あーもー、黙らなくて良いからとりあえず出てけ」

“御意”
“御意”
“御意”
“御意”
“御意”
“御意”
“御意”
 ・
 ・
 ・
 ・
次々と返される『御意』の声がリンクシェルの向こうから途切れなく続く。

「良いではないか。どうせ今日も一緒に狩り行くんだから。共に行こうぞ。さぁさぁ、朝餉だあ・さ・げ」
ドアを直して戻ってきたモーグリに向かって、ローディは『朝餉』と言って食事を乞う。
鞄をベッドの上に放り投げ、青筋を立てたダンが振り向いた。
「変態っ!オイそこの変態!」
「なんだ朝餉」
朝餉じゃねーよ。帰れっつってんのが聞こえねぇのか」

ダンはテーブルに突っ伏してゴロゴロしているローディの頭を、容赦なく鷲掴みにする。
頭を押さえつけられたローディは『あんっ』と妙な声を漏らし、うっとりとダンを見上げた。
「ダンが、うちのリンクシェルに入るって言うなら、帰るぞよ?」

―――ぶちっ。

何かが切れたような音がして、モーグリがスッと別の部屋へと逃げていった。
ダンのもう片方の手が、明らかに自分の両手剣を探している。

ローディの頭の中では、依然としてリンクシェルのメンバーたちの『御意』が止まずに鳴り響いている。
彼自身すでにメンバー数を把握していないため、その『御意』はまだしばらく止みそうにない。

そんな騒がしい脳内を抱えながら、ローディはふと口を開いた。

「大体、そのダンの目標っていうのが、どうも俺様的に納得いかないんだよのぅ。その知り合いっていうの何?女?」

ダンの動きがピタリと止まった。
さっきまで顔にのぼっていた怒りが、すぅっと引いていくのが分かる。
表情が消えていく。

ローディの手から頭を離すと、ダンは鼻で笑った。
「……ふん、違ぇよ。っつーか、ガルカだ」
戦意を失ったのか、ダンは黙って鞄を拾い、再び物品整理に戻った。
その様子を、ローディはテーブルの上にじわじわと這い上がりながら覗き込む。
「もしかして、そのガルカも狩り上手いのかえ?」
「いいや。へたれ過ぎて泣けてくるくらいだな」
腕の立つ者にしか興味がないローディは、即座に探りを入れてきた。
だが、ダンは予想していたかのように淡々と返す。
ローディは答えに納得いかない様子で、唸るようにダンを見つめた。
「じゃあ、なんでそんな奴お前が構ってるんだね?依頼か何かか?」
ずいっと身を乗り出し、テーブルの上から上半身を垂らして尋ねる。
ものすごい姿勢で迫ってきているが、ダンは一切気にせず、唇を苦々しく吊り上げるだけだった。

ローディはそんなダンをじっと見つめ…… 再びリンクシェルに向かって、静かに一言、口にした。

“誰か”

その瞬間、『御意御意』と鳴り響いていたリンクシェルが、ぴたりと静まり返る。

“Dの身辺調査して報告してちょ”

「お前今リンクシェルの方に何か指示出しただろ」

今度は口に出していないのだが、察したダンが鋭く睨む。
変態は『その勘の鋭さが好き』と言わんばかりにニヤリと笑う。

「きーっひっひっひ!だって俺様、ダン・ラブ☆だからのぅ。
略して『ダブ』!!!

「あの、おはようございます~っ」

丁度『ダブ!!!』のタイミングで、息の弾んだ挨拶と共にドアがノックされた。
テーブルの足に巻きついていたローディは、『ロエたんだ!!』と神反射してドアに向かう。
ドアを開けたのがダンでなかったことで、ロエは一瞬ショックを受けたような顔をした。
前回より少し早く来たようだが、やはり今回も先にローディがいた――それがショックだったのかもしれない。

そんな彼女の動揺などお構いなしに、ローディはその美しい顔でにこーっと笑いかける。

「今日も一緒にエンジョイしようにゃん☆」

気持ち悪い美青年に迫られて固まっているロエの腕を、脇からダンがスッと引いて救出する。
ロエを引くと同時にローディを外に蹴り出そうとしたが、グニャリと体を曲げた変態は軽やかに跳躍するとテーブルの下に戻った。
小柄なタルタルの魔導士が、頬を赤らめていることには気づかないまま、 ダンはテーブルの下の疫病神を、最高に嫌悪する表情で見下ろしていた。

確かに、ローディはプロフェッショナルだ。
狩りに連れていけば効率は抜群、かなり使える男である。

しかし……しかし―――。


独特の奇怪な笑い方をする変態を見下ろして、またこいつと過ごす一日が始まるのだ……と思うと、ダンは気が遠くなるのを感じた。

ローディの頭の中では、再びリンクシェルの『御意御意』が延々と再開されていた。



待っておいで、私の白馬よ。

私は必ずお前を捕らえてみせる。



<End>

あとがき

はい、見事なホラーに仕上がりました。

……大変申し訳ございません。(いや、マジで)
変態、朝だけでこの調子なので一日描くのは無理でした。(´□`;)
話の時期的にはダンがロエとジュノに来て狩りに明け暮れている頃です。
記念すべきキリリク第1作目がこれって……どうなのよ。
リクエストありがとうございました(;´Д`A