二つの天秤

第三章 第五話
2005/12/23公開



あの衝撃の出会いから数日が経った。
ダムが決壊したかのような凄まじい混乱と動揺で、あの日を境に眠れぬ日が続いている。
あの瞬間に襲った衝撃は、夢から覚めたことによるものなのか、夢など見ていなかったと気が付いたからなのか。

そう、夢ではなかった。

夢ではなかったのだ、決して、自分が作り出した幻などでは。
ずっと捜してきた。あの人達が存在したと、あの人達と自分は生きたのだという証を。


ソレリ……


あなたは、ソレリなのか?





私は捜した、あの親子と最後に共に過ごしたこの町を。
彼女はここにいる!ジュノに!!

このジュノの町は冒険者達で連日賑わいを絶やさない、流通の中心の場と言える。
私は色々な種族の人間達がごった返す町中を昼夜問わず捜し歩いた。
人々で賑わう大きな通りから奥まった街路まで。
ある日は大きな通りを見下ろせる場所を丸一日動くことなくじっと彼女の姿を捜し続けた。
襲撃の頻度が下がってきたとは言え、ウロウロと歩き回るのは賢明な行動とは言い難い。
いつ、誰が、殺意を向けてくるか分からないので、彼女の姿を捜すことだけに集中することはできなかった。
捜している間、私の目は自然とある特定の者達ばかりを追う。
その長身と褐色の肌が特徴のエルヴァーン族。
エルヴァーンが皆刺客に思えて仕方が無く、娘を捜す目は時に彼らを警戒する眼差しになる。
すれ違う瞬間までは民間人を装っていて、すれ違った直後にあの軍師の犬に豹変するのではないかと思えるのだ。
近年放たれる刺客には他種族の者も姿を見せるようになっているので、今やエルヴァーンだけを警戒すればいい状況ではないが……。
だがあの軍師が放つ刺客は圧倒的にエルヴァーン族の者が多い。
他種族の入り混じった、まるで寄せ集めのような若者が剣を向けてくることもあったが、恐らく彼らは捨て駒、緊急時に放り出す撒きびしに過ぎないのだろう。
今まで斬り捨ててきた者達の顔など覚えてはいないが、人込みの中に過去に見た顔がいるような錯覚を起こすこともある。
歩き回ることがどんなにリスクの大きいことかは理解していた。
だが、捜し続けてきた少女との再会と天秤にかけるのならば、まったく比較にはならなかった。

ところが、捜しても捜しても捜しても、目に入るのは世界中から集まった冒険者の者達。
私はその冒険者達を眺めれば眺めるほど憤りの熱が体内を焦がした。
昔に比べて、世界は平和になったのだ。
獣人達は未だに存在し人間に危害を加えるが、軍を成して攻め寄せてくるわけではない。
町には物が溢れ、世界を旅する冒険者達が流通を促し、町の通りに活気をもたらす。
冒険者達は他国の人間と交流を持ち、意見を交わし、共に戦い、この世界を知ろうとその足で仲間と共に旅をする。

そんなことが出来る時代が訪れるに至ったのは何故か、知っているか?

この時代のために数え切れない“誰か”の血が流れたことを知っているのか?


貴様達は知らないのだろう、戦争というものを。



アルタナの女神の気まぐれな奇跡に保護され、軽はずみな武器を取り、平和にしてもらった世界を駆け。

笑い合いながら冒険の話ができるのは。

一体。

誰の。




ソレリを捜す私のすでに死滅した心を、そういった黒いものが更に塗り潰していった。



そして今日、再びこの町で彼女の姿を見つけた私は更なる衝撃を受けた。
数日前に突然私の前に現れた彼女。
髪を高い位置で結わいたあの横顔、唇から零れる愛らしい声、そしてあの瞳の輝き。
私が知っているあのヒュームの夫婦の姿そのものだった彼女は、腰に一振りの剣を下げ、腕に盾を備えた武装した姿であった。

何故あなたがそのような格好を?
それではまるで………

そして彼女を見つけた場所に、私は自分の体が凍り付くのを感じた。
彼女は数名の若者と共にクフィム島へ向かう地下通路へと入って行ったのだ。
私の体は動けなかった。
途端に全身に冷たい汗が噴き出し、四肢はまるで石化したかのように硬直した。
身体のあらゆる場所にいくつも残っている師の剣による傷痕がざわめき、私の身体を縛める。

……どうして………行かな…で………駄…だ………殺される……!!!

行っては駄目だ!!!!



私は過去に受けた傷口が全てこじ開けられたような感覚に襲われながら、地下通路に足を踏み入れた。
頭の中は疑問や懺悔の叫びに埋め尽くされ、今は親子の後を追っているあの日なのか、あれから十七年月日の流れたあの日とはまったく別の“今”なのか、分からなくなる。

―――――何故そっちに行ってしまうんだ?
死んでしまう!
もう会えない!
二度と!

膨大な自分の悲鳴に頭の中が埋め尽くされ、割れそうな程に頭が痛んだ。
身体がまるで自分のものではないかのように全力で前進を拒絶している。
本当に傷が開いているのか?激痛が駆け巡り身体中が悲鳴を上げていた。

それでも私は赤子のような覚束ない足取りで、湿った壁に手を付きながら一歩ずつ前進した。
あの夫婦の娘らしき彼女が引き返してくることを願いながら、暗い通路の先を見つめて。



今や遠い昔の、初めてこの通路を歩いた時のことをふと思い出す。
初めて鎧を身に着け、初めてあの人達と肩を並べて歩いた。

ドルスス、セト、ワジジ、フィルナード。




――――みんな……あの後、私はマキューシオ達ともう一度ここを通りました。




――――――でも、止められなかったんです。





皆で歩いた時の記憶が、親子を追ったあの日の赤い記憶に塗り潰される。
激しく足がガクガクと震え堪らず片膝を付くが、荒い息をついてすぐさま立ち上がった。

時は経った、長い長い時間が。
あの頃の無力な私ではない。
今度こそは、絶対に。

緩い上り坂となった地下通路を進み、私はついにクフィム島に入った。
目に眩しく映ったのは、いつか見た時と変わらない地面に薄く積もった白い雪。
その白い雪を蹴散らしながらモンスターと戦う冒険者達の姿があった。
びくりとして私は足を止めると、その冒険者達の中にあの娘の姿を捜す。
まさか冒険者であるはずはないが。
そしてその冒険者達の中にあの種族を見かけると無意識に体が不穏な強張りを起こす。
エルヴァーンに対して重い不信感を抱いているわけだが、私は冒険者という者達も腹立たしく思うのでどちらにせよその光景を眺めて嫌悪した。



しばらく捜してみたが、その広くはない通路にいる冒険者達の中に彼女の姿はなかった。
もっと先へと進んだというのか。
私は焦り、尚も拒絶し続ける身体を引きずるように通路の先へと足を進めた。
傷の多い鎧を包むくすんだ黒色の外套が、今日は何故かとても重く感じる。
冒険者達のようにしっかりと整った装備はしていない。
手に入ったもので具合の良いものを身に付けているだけで、大きく破損したらまた別のものに変える。
今身に付けているものの多くは、己の手で命を刈り取った者達のもの。
今までそれについて何か考えたことはないが、今日ばかりはそれらの防具に何かが宿っているのではないかと思えた。
それでも、酷く怯えている自分の体に檄を飛ばして私は歩を進めた。



すると見つけた、昔見たヒュームの女性と同じ後ろ姿を!
そして私は自分の長い銀髪の陰で大きく目を見張った。
彼女が自分を押さえていた男を振り返り、何か言って手を差し出しているがその相手は……
―――――――エルヴァーン!!!

私の中で爆発的な殺意がうねりを上げた。
先程は彼女ばかりに気を取られて気が付かなかったが、彼女が行動を共にしている者の中にエルヴァーン族の男がいた。
何故!?彼女は何のためにこの島へ入ったのだ!?
今彼女の目の前にいるのは、彼女や私にとって大切なものを全て奪った愚暗の種族だ!
何故その憎むべき者の後に続くのか、あの傲慢な男の仲間に!
共にいるあの若者達は一体何者なのだろうか、何故彼女は武装している?
嫌な予感がする、このままでは彼女の身が危険だ。
私は黒い外套にほぼ姿を隠している大きな鎌の柄を手で掴み、これからの自分の行動を必死に考えた。

すると、更に私を混乱させる光景が目に映った。
彼女が崖の方へと向かう。
それを見て私の身体は再び強張り、駆け出すどころか息が詰まった。

――――何故?
――――何故だ!?

とても私には足を向けることができない、あの崖。
私の全てが始まり、全てが終わったあの崖。
全てが美しく、全てが神秘的で、全てが狂っていた、あの崖。

記憶が蘇活して動けなくなった私をよそに、彼女は極普通に崖を見物すると親しげなその若者達と島の奥へと進んでいった。



そこで私の中に大きな疑問が生まれた。



―――――本当に、ソレリなのか?



私には無理だ、もうこれ以上足を進めることはできない。
あの崖の先を見ることも、空を見上げることすらできない。

あなたは違うのか?

その崖の先に両親は身を投げ、あなた自身も崖の下に落ちかけて、そしてあなたは亡者のスケルトンに殺されたのではないのか?
あなたは何とも思わないのか、この狂気の島を。

本当にソレリ?

あなたは、あの少女ではないのか?


雪の輝く地面の先、岩の狭間にできた通路の先に彼女の姿が見えなくなっても、私の身体は呆然と立ち尽くして動こうとはしなかった。
見えなくなった彼女の姿を思い浮かべながら、私は自分を問い詰め言い訳を聞く。

何故彼女がソレリだと思ったのだ、私は。

それは……彼女の様々な部分があのヒュームの夫婦を思い出させるからだ。
表情の作り方はまるで違う、だから別人ではないかと思える瞬間もある。
しかし不意に見せる眼差しが、仕草が、強くあの少女を脳裏に映し出す。

私の脳裏に色濃く焼きついているのは、最後に見たあの泣き叫ぶ少女の姿だけ。
でも、少女が笑った時は、今見つめる先にいる彼女のような輝きを放っていたように思えるのだ。


ここで引くには、十七年の年月は長過ぎる。


私は胸が潰れるのではないかと思えるほどの息苦しさに耐えながら、唇を噛み、肉が裂けるような感覚を無視して身体を前進させた。
追って確かめるのだ。別人なら、他人の空似だったのなら、また野良犬の生活に戻るだけ。
しかしせめて人違いだと納得するまでは、十七年を経てやっと得た光を手放すことは。
どう確かめれば良いかなど私には分からなかった。
彼女に私だと伝えたら、彼女はどういう反応をするだろうか。
嫌なことを思い出させてしまうかもしれない。
それとも、会いたかったと涙を流してくれるだろうか?
もしかしたら私のことなど覚えていないかもしれない、もう大分昔のことだ。
覚えていなかったら?どうすればいい?
ソレリにこれと言った身体的な特徴があったわけではないし、彼女や彼女の家族の写真を持っているわけでもない。
また、彼女が私達との関わりを示すものを持っているとは考えられない。
証明しようがないのだ、お互いに。
だが、とにかく私はもっと傍で彼女を見たい、この目でしっかり確かめたい。
証明するモノはなくとも、互いの心が、魂が証明してくれるのでは?

私はたくさんの弁解を恐怖に凍て付く身体に浴びせながら、ゆっくりと足を運んだ。
崖の方は見ない、今目指しているのはあそこではない。
私が今歩を進めているのは、あの少女と再会を果たすためなのだから。


彼女が進んでいった通路を追ったが、なかなか彼女の姿を見つけることができなかった。
進む内に何度も道は分かれていたし、開けた場所に出てしまえば何処に行ったかなど見当がつかない。
私は崖よりも奥に進むのはこれが初めてなので、ただ闇雲に進むしかなかった。

しばらく浅い雪が積もった上をさ迷い歩いた後、私は冷気に霞む塔のようなものを遠くに見つけた。
島の奥にこんなものがあったのかと思わず足を止めてその塔を眺める。
そうして私は再度捜し人の姿を見つけることができた。
ここからだとかなり小さくだが、塔の下に冒険者達の姿が見えた。
そして、その中に彼女はいた。
あろうことかその手に抜いた剣を持ち、彼女の目の前には魔物が対峙していた。
さっと一瞬で血の気が引くのを感じ、私はその光景に見入った。
すると彼女が怯えた様子で塔の中に駆けて行き、その場には彼女と入れ替わるように先程のエルヴァーンの男が駆け込んだ。
男が腰の剣を引き抜く姿を見た瞬間、身体の底から何かが猛然と湧き上がった。
瞬く間に魔物を斬り伏したその男が例の彼女を追って塔の中に駆けていく。

ヤハリヤツハ敵ダッタ、カノジョハ殺サレテシマウ。

一瞬で頭の中が真っ白になった後、気が付くと私は塔の中と思われる広い通路を駆けていた。
そして斬り殺された巨人の遺体、片膝をついて屈むあのエルヴァーンの男、瓦礫の中に倒れたヒュームの娘の順に己の瞳に捕らえた。
――――まさか、本当にあの男は軍師の放った刺客なのか?
――――テュークロッスはすでにソレリのことを見つけていたというのか!?
私は驀進する殺意を辛うじて押さえ込み、男の首を跳ねるギリギリのところで鎌を止めた。
殺せとわななく体を僅かな理性で食い止める私の目は、恐らく狂気に震えていることだろう。

殺せ、殺さないとまた奪われる。

脳裏で気が触れた自分の声が金切り声でそう喚き散らしている。
しかし、今の私はとにかく情報を欲していた。
私は殺意に取り憑かれた手を必死に食い止めて、尋ねた。



「……………貴様………何者だ」



   *   *   *



どっという鈍い音がして、リオに向かって猛進してきた巨人の左足膝下が飛んだ。
その直後には、支えを失い大きくバランスを崩して前のめりになった巨人の背に止めの一太刀が走る。
勢い余って地面に倒れ込む巨人の体が、リオのすぐ横にずずんと地響きを上げて横たわった。
「ギャーーー!ギャーーー!あぁぁぁぶないわねこの大雑把男!!!」
荒々しく巨人を斬り倒したダンは片手持ちの剣を大きく払うと、他に危害を及ぼしてきそうな敵がいないか周りを探った。
一通り付近のモンスター達を派手に一掃したので、しばらくは危険なこともないだろう。
ほっとした様子で、軽傷を負ったリオに回復魔法を詠唱しようとするロエ。
しかし集中しようとしたところでダンが強い口調で言った。
「こいつは俺が。ロエさんはパリス達を追ってください」
一瞬怒鳴られたのかと肝を冷やす程の張りのある声にびくりとすると、ロエは何をどう言おうか困惑しながらちらりとリオを見る。
「大丈夫、回復なら俺も多少できる。行ってください」
更に語気を強くしてロエの目が訴えることを拒否し、ダンは回復魔法のケアルを詠唱した。
治癒する魔法の最も初歩的なケアルくらい、ダン程の冒険者になれば少々白魔法を勉強すれば容易く成功させることができる。
寧ろこれから本職を戦士ではなくナイトにする予定のダンならこなして当然のこと。
パァッと柔らかい光を浴びてリオの傷は瞬く間に癒えた。
「……あんたに癒されるなんて気分悪いわ」
助けてもらっておいて無遠慮にそんなことを言うリオなど完全に無視して、ダンは尚もロエを急かした。
リンクシェルの方では怒りを露にした声であちらの現状を探っている。
トミーがデルクフの塔に入ったという知らせを聞くと、ダンは眉間のシワを一層深くして舌打ちをした。
そんなダンを見上げて、ロエは何かを堪えるように一度口を引き結ぶ。
バインドの魔法がまだ解けないリオはジタバタしても足が地面に縫い付けられたように動けず、イラついて暴れた末バランスを崩してその場に尻餅なんぞついている。
それなりの冒険者であらばミミズのバインドなど早々に跳ね除けてしまうのだが、やはりリオはまだまだ未熟なのでなかなか魔法の効果は消えそうにない。

「……私…が…ここにいます。だから、ダンさん行ってください」

――――と、俯いていたロエが唐突にそんなことをしどろもどろに口走った。
そう言っているロエ自身、自分が何を言っているのか理解できないというような顔をしている。
そんな彼女を見てダンも意味が分からないという顔をした。
魔道士が護衛するより前衛が護衛についた方が良いに決まっているではないか。
ロエはトミーのような無知とは違う、そんなことは充分理解しているはずである。
気付くのが遅いと自覚しつつも、ダンは今日のロエは何だか様子がおかしいように思えてきた。
勝手に軽く混乱している様子のロエに向き直ったところで、二人の頭の中にトミー発見の声が響く。
一気に気の抜けたようなそのパリスからの報告を聞いた二人は、ハッとデルクフの塔を見る。
二人揃ってのその仕草に、リオが怪訝な声を漏らすと、『合流した』とダンが深い溜め息をつきながら状況を一言で説明した。
リオにはリンクシェルの会話が聞こえていないので、何が何だか分からないという顔をして座り込んでいる。
“良かった……怪我はありませんか?”
“うううスミマセン大丈夫です……”
“そっちはどうなの?大丈夫かい?”
“あぁ、今効果切れ待ちだ”
“了解~塔の下で待機しますよ~”




「………………こういった状況で私情は入れてほしくない」

数秒間の沈黙の後、ダンがぼそりと低い声で言った。
その言葉に、デルクフの塔からダンに視線を戻せずにいたロエの小さな肩がびくりと震える。
座り込んだままのリオは大きな三角の耳をぴくりとダンに向けて眉を潜める。
「気を使ってくれたのかどういうつもりだったのかは知りませんが……態勢が乱れるので」
――――と、その忠告を凍りついたように硬直して聞いていたロエは、突如頭の中にリンクパールを通じた甲高い悲鳴が聞こえ目を白黒させた。
それはダンにも聞こえたのか、ダンも途中で言葉を切って再びデルクフの塔を眺める。
リンクシェルで何事かと二人で問い掛けるが、しばしの間あちらからの返事はなかった。
今のは相当音域が高かったが、間違いなく長身のエルヴァーンの方の声であった。
「まったくさっきから何なのよあんた達、意味分かんないわよ」
ちっともリンクシェルからの情報が入ってこないリオとしては、通常会話をしていたかと思うとリンクシェルの会話に気を取られる二人が不可解でならない。
「なぁにもう、今日は最低よ!あの金髪睫毛男はキモイしローラは私をシカトしてくしっ。あたしが待てっつってんのにローラのやつ……ぶっ飛ばしてやるわ!」
親指の先をがじがじと噛みながらぼやくリオをキッとダンが見下ろした。
何がこっちのことだあのハゲ……おい、まだバインド解けねぇのか!?」
「ハゲ?!誰がハゲよあんたもぶっ飛ばすわよ!!?」
思い切り勘違いして凶暴な形相をしたリオは勢い良く立ち上がってダンに迫った。
それにロエとダンは目を見張る。どうやらバインドの効果はもう切れていたようだ。
「…っ……ロエさん先導頼みます!」
「は、はいっ」
舌打ちして声を張るダンに慌てて返事をすると、ロエはタッと小さな体で駆け出した。
デルクフの塔を目指すロエに続けとリオに対してダンが怒鳴り、リオは憎まれ口を叩きながらも勢いに流されてロエの後を追った。
再びリオがモンスターに絡まれないよう見張るため最後尾についたダンは、前を走るリオの文句も今は耳に入っていない。


返事を返さないのか、返せないのか。

考え難いが後者のような気がしてならない。




………あいつの声が聞こえなくなった。


ダンはもう一度リンクパールを通じてパリス達に呼びかけながら、前方にそびえるデルクフの塔を見据える。
そして自分の油断に激しい苛立ちを覚え、無意識に『くそっ』と毒付いた。



<To be continued>

あとがき

第五話ですが全然ストーリーは進んでいない罠。
しかし、第五話を読んでからまた第四話を読み直すと、もしかしたらささやかな発見があるかもしれません。(何)
ってか…わぁ~こんな人が後をつけてきてたんだねぇ~怖いね~。(´□`;)
ここで一気に第二章の暗さがリターンしてきましたね!やった!!(ぇ)