愛する仲間達
2005/07/15公開
剣を握るマキューシオの手に力がこもるのを感じた。
しかしノルヴェルトはどうすることもできない。
頭の中が真っ白になり、ただただ呆然とマキューシオの顔を見つめていた。
「マキューシオッ」
眠っているソレリを抱いたスティユがマキューシオの名を“呼んだ”。
不思議そうにスティユを振り返る夫に対し、彼女は眉をしかめて言う。
「早く……行かないと……」
ぎゅっと幼い娘を抱き締めるスティユはマキューシオから顔を背ける。
否、彼女が顔を背けたのは、夫の向こう側にいるノルヴェルトの視線からだった。
「あぁ」
スティユの言うことに納得したのか、マキューシオはノルヴェルトから剣を引き抜くと踵を返す。
ノルヴェルトは袖の先まで真っ赤に染まった腕をだらんと下げたまま、再び歩き出す夫婦に向かって刺された方と反対側の手を微かに伸ばした。
だが、マキューシオに続いて歩き出す際にスティユがノルヴェルトへ一瞬視線を投げる。
ついてこないで。
彼女の疲弊した目がそう訴えていた。
「………マキューシオ………スティユ……?」
その場に置き去りにされたノルヴェルトは彼らの名を呟く。
彼らと少し距離が開いたところで、ノルヴェルトは彼らの様子が異常だということを今更ながら理解する。
拍動に合わせて流れ出す血の勢いは、ノルヴェルトの呼吸が浅くなるのに比例して速くなる。
左上半身がじわりと赤く染まり、左腕の指先からは血が滴った。
ノルヴェルトは干上がった口で固唾を呑むと、ヒュームの夫婦を追って足を踏み出した。
「どうして……?マキューシオ……」
不思議と刺された肩に痛みは感じず、代わりに胸が潰れるほどに痛い。
徐々に歩みを駆け足に代えて、もう一度マキューシオの名を叫んだ。
するとマキューシオが再び足を止めてノルヴェルトを振り返った。
今度は、スティユは振り返らなかった。
マキューシオがゆっくりとした歩調で先程と同じようにスティユの後ろまで下がってくる。
ノルヴェルトは自分の血のついた剣を手にこちらを待っている師の姿に、今までに感じたことのない眩暈と寒気を感じた。
意識を己の背に馳せる。
ノルヴェルトが予想した通り、あと数メートルというところでマキューシオが素早く剣を構えた。
マキューシオが剣を向けてくるのを待っていたかのように、ノルヴェルトも歯を食い縛って背の剣を引き抜く。
細身の剣が横一文字に払われる軌道が思い浮かび、両手持ちの剣をしっかり握り前に構えた。
マキューシオの細身の剣がノルヴェルトの剣とぶつかる!
その瞬間、マキューシオの剣はノルヴェルトの剣をすり抜けた。
ノルヴェルトが剣を握る手に衝撃を感じたと同時に、目の前に構えた剣は刃の4分の一部分から先が消えていた。
一瞬遅れて金属が切断されるような音が鼓膜を叩く。
マキューシオの剣を受け止めたはずの剣は折れ、ノルヴェルトの左の眉辺りから血が吹き出した。
血しぶきの向こうにいるマキューシオの表情は、まったく別人のもののように見えた。
ノルヴェルトは時間が止まったような錯覚の中、直感する。
今、マキューシオが握っているのは、殺す剣だ。
ノルヴェルトは吹き飛んでいく剣の刃を視界の端に見、自分の剣とマキューシオの剣の格の違いを目の当たりにした。
自分の剣がどんなに中身のないものだったのか、どれほど浅はかなものだったのか。
それをはっきりとマキューシオに告げられたような気がした。
そして師は今、自分を殺そうとしている。
今まで刺客に向けられてきた剣などとは比べ物にならない程の重圧だった。
――――――――――殺される。
* * *
“やはりこの町に潜伏しているようです”
頭の中に直接流れ込んでくる部下の声。
赤髪の若い騎士団長は、大きなテーブルを囲んで御託を並べる古い人間達の話に目を瞑り、遠い地からリンクシェルを通じて入った部下の報告に耳を傾けていた。
自然と唇に微かな笑みが浮かぶ。
やはり、ジュノにいたか。
“ふむ……お前達もそろそろ鬼事には飽きてきただろう。此度で終りにしろ”
“はい。一度に全員排除するとなりますと多少目立つかと思いますが”
“構わぬ”
淡々と返事を返す部下にこちらも淡々と返す。
目を開くと、祖国を愛し自身を愛する者達が含んだ発言を交わし、目配せ、表情の下で笑っているのが見える。
全く、やりやすい世界になったものだとその光景を内心せせら笑い、大きなテーブルの上座に腰掛けている騎士に微笑んだ。
この世界は自分が望む通り、何もかも上手くいく。
“町は今祝い事に賑わっているのだろう?丁度良いではないか。私の願いを叶えたこの日を、世界が毎年祝い楽しむ”
* * *
地下道を抜けるとそこは数年前に訪れた時と同じように白く輝いていた。
ごつごつした岩の島には雪が積もり、人の気配を感じない自然の静寂が広がっている。
ただ、以前来た時よりも気温が大幅に低くなっているように感じた。
止め処なく流れる涙と血のせいなのだろうか、とにかく寒くて体が震えた。
いや、この震えは寒さのせいでは……。
追う先にはヒュームの夫婦とその幼い娘。
まともに歩くことも出来なくなった体で、ノルヴェルトは白い雪を赤く染めながら三人を追う。
マキューシオが自分を殺そうとしているのだと感じた時、とても恐ろしかった。
怖くて怖くて逃げ出したくなった。
しかし、ここで彼らに背を向けたら、きっともう会えない。
今連れ戻さなければ彼らは二度と帰ってこない、ノルヴェルトにはそんな確信があった。
獣のような荒い息をつきながら、ノルヴェルトが雪の上を這うように家族の後を追う。
母親に抱かれた幼い少女は少し前に目を覚まし、今は泣き声をあげている。
今の異常な事態が理解できないのは当然である。
恐らくこの場にいる誰もが理解できていないだろう。
クフィム島の空は不思議な光に覆われており、鳥肌が立つ程美しいその光にオーロラという名がついていることをノルヴェルトは知らなかった。
「……ごめんなさい……ごめんなさい…」
ノルヴェルトは呪文のように唱え続けながら前に進む。
親子の後を必死で追うノルヴェルトはまるで子供のように泣いていた。
「……ごめんなさい……ごめんなさい…」
憎しみを捨てなかったから?
マキューシオは何度も何度も俺に言ったんだ、『憎むな』って。
俺が憎むことをやめなかったから?
「……ごめんなさい……ごめんなさい…」
もうやめるよ、もう恨まないから、言う通りにするから。
「許して……マキューシオ……許して……」
振り返らない人の背中に向かって何度も何度も懇願した。
剣を失い、幾度となく斬り付けられ、魔法を浴びせられても。
ノルヴェルトは追うことを止めずにひたすら許しを請い、懺悔した。
ずっと嘘ついてたんだ、自分に。
ずっと言い訳して、人のせいにして。
「ごめんなさい……っ…ごめんなさい…」
あの時弟は『逃げて』なんて叫んでなかった。
『助けて』って、『兄様助けて』って叫んでたんだ。
でも僕は怖くて、逃げ出したんだ、『助けて』と叫ぶ弟に背を向けて。
分かってたけど、ずっと、嘘ついてた、自分に。
獣人のせいにしたんだ全部、僕は逃げたんじゃないって言って。
マキューシオ。
僕を見捨てないで。
もう嘘つかないよ、言い訳もしない、だから……。
「マキューシオぉ……」
「みんなと大分離されてしまったな」
「……そうね……セト…きっと怒ってるわ」
マキューシオの目には、ノルヴェルトはどのように映っているのだろうか。
彼がノルヴェルトに剣を向ける度、彼の目には微かな恐怖が映る。
ノルヴェルトを過剰に拒絶するマキューシオ。
そのマキューシオの行動を、正気なのか分からないスティユが何度も諌めた。
まるで戦争の時と同じように。
スティユは陶酔したように仲間について語るマキューシオに話を合わせていた。
まるで本当に仲間達が今も生きているかのように。
そしてノルヴェルトに目で語るのだ。
ついてくるな、と。
彼女が考えていることは分からないが、それはノルヴェルトの身を案じての眼差しではないことははっきりと分かった。
叱られた子供のように許しを請いながらも、ノルヴェルトはギリギリのところで正気を奮い立たせる。
「ワジジをなだめるのも大変そうだな」
「えぇ、ドルススも困っているでしょうね……」
昔のように微笑む姿に狂気を感じる。
「スティユ……駄目だ、スティユ」
彼女に抱かれたソレリは『怖い』と声を上げて泣いている。
少女は何が怖いと泣いているのだろう?
血まみれになって後を追っているノルヴェルトか。
ノルヴェルトに剣を向ける父の姿か。
幸せそうに笑う母の温もりか。
光り輝く幻想的な空か。
全てが狂っている。
ノルヴェルトはソレリの泣き声によって僅かな正気を保ち、声にならない訴えを、懸命に夫婦に向かって呼びかけた。
「空が綺麗だね」
駄目だ。
「今頃みんなもそう言ってるわ」
あなた達は逃げないで。
ノルヴェルトは血の滴る唇を噛む。
「おにちゃー」
泣き声の合間にソレリがノルヴェルトを呼んだ。
血で赤く染まった視界の中少女を見ると、こちらをじっと見つめて泣いている。
ソレリ。
ソレリが。
ソレリが、泣いてる。
「……みんなは……あなたを信じて……!」
咽ぶ呼吸の中から声を絞り出した。
「あなたを信じて戦ったんだ……それなのにあなたが自分を……っ」
がくがくと震える膝を叱咤して立ち上がる。
気が付けば、昔皆で時代を越えとようと誓い合った崖近くまできていた。
未だにこのあたりでうろついている獣人やモンスター達は、先頭に立っているマキューシオが出会い頭に斬り捨てている。
その様子を見る度に、自分も今は彼らと同じものに見えているのだろうかと思う。
ノルヴェルトは師に何度も斬り付けられた己の体を見下ろして、血の味に満たされている口を固く結ぶと歯噛みして歩いた。
「信じてよマキューシオ、みんなが信じたあなたを……!!」
喉を枯らして叫ぶと、マキューシオが足を止めて刺すような眼差しをノルヴェルトに向けた。
マキューシオの口が微かに動いたのを見て取った直後、ノルヴェルトの周りに突如稲光が発生した。
周りの空間がスパークしたと思うと、ノルヴェルトの視界が点滅し大きく傾く。
受身も取れずにノルヴェルトは白い雪の上に倒れた。
稲妻に打たれたノルヴェルトの体は小さく痙攣し、全身の傷口から流れる血が勢いを増した。
何が起きたのかよく分かっていないノルヴェルトの視界は赤と白に点滅している。
雪の冷たさも感じなくなった体を横たえたノルヴェルトは、滅茶苦茶になっている視界の中必死にマキューシオらの姿を探す。
悲鳴のような泣き声の中からソレリがもう一度ノルヴェルトを呼んだような気がした。
「ソレリ………ソレリ……」
雪の上でまどろみながら、ヒュームの親子の姿をその視界に捕らえる。
「もう振り返る必要はないわマキューシオ」
再び剣を握るマキューシオの肩に手を置いてそう言うスティユは、抱かかえていたソレリを地面に下ろしていた。
泣きじゃくる少女の小さな手を握ってマキューシオに優しく微笑んでいる。
「あなたは前だけを見て」
酷く優しい口調でスティユが言うと、マキューシオはほっとしたような表情をした。
そしてマキューシオは懐かしそうに、愛しそうに崖の先に視線をやるのだった。
「あぁ。…………ほら、みんなが待ってる」
オーロラで幻想的に輝く空の向こうを示し、マキューシオもまた幸せそうに微笑んだ。
「行かなくちゃ、大分待たせてしまったようだね」
違う、駄目だよマキューシオ。
「セトもワジジも怒っているよ」
もうみんなはいないんだ。
「……そうね……」
「折角………戦争が終わったのに……!!」
ノルヴェルトはうめくような声で嘆いた。
「折角……世界は………!!!」
マキューシオは握った剣をそっと手放し、崖の下へそれを落とす。
そしてソレリと手を繋いだスティユをその片腕で大事そうに抱き締めた。
ノルヴェルトの脳裏に、狂おしいほど愛しい戦争時代の日々が過ぎる。
みんながいる、笑ってる!
みんなと一緒なら何だってできると!
でも……!
「―――――思い出は逃げ場じゃない!!!」
「行こう」
「マキューシオ!!!!」
夫を見上げるスティユは幸せそうに微笑んでいたが、それ以上に悲しそうに涙を流していた。
「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
ノルヴェルトが叫ぶのと、ソレリが『いやだ』と泣き叫ぶのと、夫婦が崖の先へ身を投げたのは同時だった。
「うああああああああああああああああああああ!!!!!!」
ノルヴェルトは彼らが崖の先に身を投げる瞬間、固く目を閉じ血まみれの手で拳を握って力一杯叫んだ。
崖下の岩場を叩く波の音も、ソレリの泣き声が途切れるのも、何も受け入れたくない。
怪しい光に包まれた島にノルヴェルトの叫びだけが空しく響いた。
「…っ……なんだよ………これぇ……」
ノルヴェルトは泣き声の中弱々しく呟く。
握り締めた拳を何度も雪に叩きつけてむせび泣いた。
―――――が、自分以外の泣き声が聞こえることに気がついた。
はっとして顔を上げる。
「………ソレリ……ッ」
飛び降りる瞬間にスティユが手を離したのか。
『いやだ』と叫びながら母親の手を自ら振り払ったのか。
幼いヒュームの少女は、泣きながら崖の端にしがみついていた。
自分の力では這い上がることができず、雪の冷たさに手を真っ赤にして泣きじゃくっている。
彼女が片腕に抱いていたぬいぐるみは崖下に落ちてしまったのだろうか、見当たらない。
少女は母も、唯一の友達も手放し、小さなその手で自分の命を掴んでいた。
「ソレリ!」
ノルヴェルトはぼろぼろの体の状態にお構いなしでがばりと上体を上げた。
ソレリはまだ生きてる!!!!
すると、どんっと何かに上から押さえつけられた。
驚いて見上げると、ぼんやりとした人影がノルヴェルトを見下ろしていた。
骨のみとなった朽ちた体で立っていたのは、ぼうとした光を目に灯した戦場の亡者。
夜になるとこの辺りに現れる、魂に飢えたスケルトンであった。
闇夜に湧いた連中は、ノルヴェルトの血の匂いを嗅ぎ付けて集まってきたのだろう。
一体ではない。
数体の亡者が手に古びた武器を持ち、雪を踏みながら寄って来ていた。
―――――――――――こんな時に!!
「っ……ソレリ!」
早く助けなければソレリも崖の下に…!
しかし、崖の端にしがみついて泣いている少女の存在に連中が気付かないわけもなく。
二体の亡者が錆びた剣を手にゆっくりと少女の元に向かっている。
こんな状態じゃなければお前達なんか……!!
既に満身創痍の自分の肉体に歯噛みして、ノルヴェルトは自分の上で鎌を振り上げる亡者を睨む。
理性など消失している亡者は、顎の骨をかたかたと鳴らしまるで笑っているようだった。
ノルヴェルトはソレリに向かって手を伸ばし叫ぶ。
ソレリ。
しかしその叫びは声にはならず、ノルヴェルトの視界は真っ暗になった。
* * *
気がつくと、ノルヴェルトは呆然と立ち尽くしていた。
目の前には透明な青が時折きらりと光ってみせる。
振り返ると、そこは少し前にやってきたジュノの下層。
ロランベリー耕地に出るゲート脇にあるクリスタルの前だった。
呆然と辺りを見回して、ノルヴェルトはがくりと膝から力が抜けその場に座り込む。
体に怪我はない。
ノルヴェルトはそのままぼんやりと町を眺めながら、ずっと座り込んでいた。
何十分も、何時間も、時間をかけてゆっくりとした思考で考える。
獣人に家族を殺され、自分だけが助かった。
マキューシオという名の若いヒュームが率いる戦士達に救われて。
彼らから剣を始め様々なことを学びながら、彼らと共に荒野を旅した。
足りないものはたくさんあったが、非常に満たされた日々。
しかしある日、大きな戦闘で仲間のほとんどが命を落とした。
そして戦争が終結し、奇跡的に助かった仲間との生活が始まった。
マキューシオとスティユの間に子供ができて。
ソレリが生まれた時のセトのはしゃぎようは尋常じゃなかった。
でも……そうだ………セトが帰ってこなかったんだ。
ソレリだけが帰ってきて………。
……それで………。
………サンドリアから出た……………?
それからマキューシオが………?
朝目が覚めると誰もいなくて。
………………それから…………?
辺りは日が落ちて、真っ黒の空から白い雪がふわふわと舞い降りてくる。
しんしんと雪が降り始めた町は、どの家も暖かな明かりが灯っていた。
ノルヴェルトはゆっくりと立ち上がると、少し戸惑いつつもおずおずと駆け出した。
クフィム島を目指して。
クフィム島の空にオーロラは消え、町と同じようにしんしんと雪が降っていた。
ノルヴェルトは剣を持っていなかったが、モンスター達はノルヴェルトを自分よりも強い相手だと察知して襲っては来ない。
あの亡者達も、まるで初めて会うかのような様子で、やはりノルヴェルトを相手にしようとはしない。
ノルヴェルトの体に纏わりついていた血は全て拭い去られていた。
ノルヴェルトは新たに積もっていく雪を蹴散らしながら崖へと向かう。
そして先程まで自分がいたはずの崖までくると、立ち止まって白い息をつきながら辺りを見回した。
何もない。
ただ辺りは白い雪に覆われていて、崖の先には黒い海が静かに広がっている。
「…………?」
ノルヴェルトは首を傾げると、しばしその場で考える。
もしかして………。
ノルヴェルトは来た時と同じように雪に足を取られつつ、ジュノの町へ引き返した。
走って走って、通りから横道に入り我が家の前に戻ってきた。
明かりはついていない。
弾んだ息をつきながら、ノルヴェルトはいつものようにドアを開けた。
中へ飛び込むと勢いよくドアを閉め、ドアノブを握ったままじっと外へ意識を馳せる。
ノルヴェルト。
………いつもの声がない。
振り返っても家の中はがらんとしており、全てが墨を被ったように黒かった。
「?」
ノルヴェルトはそっとドアノブから手を離して家の奥へ進んだ。
ドアを開ける。
誰もいない。
ドアを開ける。
誰もいない。
ドアを開ける。
誰もいない。
ドアを開ける。
誰もいない。
誰もいない。
誰もいない。
誰もいない。
「…………ほん……と…に……?」
ノルヴェルトはマキューシオ達の部屋に駆け込むと、棚の上を見上げる。
マキューシオの剣はない。
周りにあるもの全てが、立ち尽くすノルヴェルトに現実を突きつけていた。
―――――――――ごとっ……。
微かな物音が聞こえノルヴェルトは部屋を飛び出した。
するとドアの方に人影が見えたような気がする。
駆け寄ろうとすると、ドアに向かう途中にある傷んだ戸が閉まっていた窓が静かに割れた。
ノルヴェルトがびくりと足を止めると、今度はドアが破られて黒い影がぬっと家の中に入ってくる。
息を詰まらせてノルヴェルトは部屋に引き返すと、棚の上に目一杯手を伸ばして布に包まれたフィルナードの大鎌を取った。
そしてそれを抱き締めると部屋から駆け出す。
出たところで黒い影達と鉢合わせたが、ノルヴェルトは叫びながら強引に突破する。
そしてそのまま家を飛び出し、自分でもよく分からないことを叫びながら雪の降る町を駆け抜けた。
“あの……マキューシオ!”
“ん?どうしたんだノルヴェルト”
“僕の所属は……”
“そんなん護衛部隊に決まってんじゃーん!”
“そうだぞ護衛部隊だ、お前暗いしな”
“はっはっは!こらこらお前さん方、ノルヴェルトがムッとしてるぞ”
“なぁに~いきなり前衛とかできると思ってんのもしかして?”
“そ、そんなんじゃないよ!”
“もうセトったらそうやってすぐに……”
“はは。……ノルヴェルト、君にはセト達が言うように護衛部隊に属してもらうよ”
“…………護衛……”
“私達の活動の意味を知ってもらうためにもね、それは大切なことだから”
“……うん…………分かった…”
“…………あーあぁ!”
“どうしたの?セト”
“何かさぁ~……さっきみたく何っちゅーの?誓いっちゅーの?あぁいうのやるとホント、戦争の終わりが楽しみってぇかさぁ”
“なんだいきなり”
“ワジジは考えないん?戦争が終わったらうちらどんな生活してんだろとかさ~”
“はっはっは。うん、そういうことを考えるのは大事かもしれんなぁ”
“でしょでしょ!?ねぇ~うちらバラバラになるとかだったらヤなんだけど~”
“ふふふ、セトったら。そんなことないわよ”
“ホントかなぁ?だってフィルナードあたり絶対音信不通になりそうじゃん。マジ確信あるし”
“………………”
“はっはっはっは!”
“ははは。……そう心配するなセト、大丈夫だよ”
“でもさぁマキューシオ~”
“戦争が終わっても私達は仲間だ。戦争あっての私達ではないのだから”
“それだ、俺も今それを言おうとした”
“はっは!そうだなぁ、マキューシオの……いや、お前さん方の言う通りだよ”
“じゃあさ~あそこにまた皆で来るんじゃん?きっと!”
“そうね、また来たいわね”
“あぁ”
“……みんなでまたあそこに?”
“そうだぞノルヴェルト、もしもフィルナードが渋ったらお前が無理矢理にでも連れて来い!はっはっはっは!”
“……………ふん……めでたい奴らだ…”
“あっははは!その時までに今よりもずっとずっと強くなっといてよね、ノルヴェルト!”
“痛っ………マキューシオ…”
“ん?随分と不安そうな顔をするんだなノルヴェルト。はは、そう心配することはないさ”
“…うん…”
“大丈夫…………君は強くなれるよ”
“にっしっし♪マキューシオのおっ墨付きじゃーん!”
“うあ!?”
“こらセト、危ないわよっ”
“はっはっはっはっは!”
思い出よ
永久に美しく
あとがき
………………えへ☆(←死んでしまえ)いえ、あの、ほんと、すみません、マジで。
痛いでしょう?痛いですよね!?(何)
お願いします、直ちにエピローグへ行ってください。
もう一度言います。
直ちにエピローグへ。(汗)