どちらへ?
俺は俺のために生きるんだ。
誰にも束縛されず、自由に。
――そう思って、俺は冒険に出たはずだった。
なのに、あいつに出会ってからというもの……
自分の中の歯車が、どこか狂ってしまった気がする。
なんでこうなっちまったんだろう。
自由奔放、気楽で豪快な俺の冒険は、どこ行っちまったんだよ……。
“ダ~ン~、分かんないよぉぉ~”
あいつの情けない声が、青い魔法の真珠――リンクシェルから聞こえてくる。
俺はもう何度目になるか分からない、深い溜め息をつく。
“何でだよ。俺の言った通りに進んでんのか?”
“もちろん!……えー、おかしいなぁ。ちゃんと言われた通りに進んでるのに……。右って、お箸を持つ方だよね?”
ラテーヌ高原を走るチョコボの上で、俺は思いっきり脱力した。
周りには誰もいない。
風が草原を撫でる音だけが、静かに通り過ぎていく。
晴れ渡る空の下。
疾走するチョコボを操りながら、俺はリンクシェルでの会話に気を揉んでいた。
――この場にいない奴をナビするのは、正直めちゃくちゃ面倒くさい。
しかも、相手が“天才的な方向音痴”となれば、尚更だ。
サンドリアの町を出た時から、ずっと道案内してやってる。
なのに、リンクシェルの向こうの相手は“え?”とか“わかんない”とか、そんな言葉しか返してこない。
いい加減、くたびれてくる……。
そんな時、別のリンクシェルメンバーの声が聞こえてきた。
“そうです。お箸を持つ方ですよ~”
落ち着いた優しい声。
タルタルの白魔道士、ロエさんだ。
“トミーちゃん!ウサギがいる方向に進んでいけばいいんだよ♪”
呑気な声でくだらないことを言ってるのは、エルヴァーンの赤魔道士、パリスの野郎。
パリスからの謎の助言にトミーが反応する。
“む、ウサギを目印に進めばいいんですか?”
途端に半眼になる俺。
パリスは機嫌のいい声でなおも言葉を放り込む。
“そそ♪そこにいるウサギさんは、地形を熟知しているからね~”
“おぉ~~!”
“パリスてめぇ、変なこと吹き込んでんじゃねぇ!!”
歓声を上げるトミーの声を聞き、堪らず俺は突っ込んだ。
“トミー、お前も『おぉ~』とか言ってんじゃねぇよ。ンなわけあるかっ”
荷物袋から顔を覗かせている真珠に向かって歯噛みする。
――めんどくせぇ!
けど、ちゃんとツッコんでおかないと、トミーの奴はマジで信じちまう。
後から修正する方が、もっと面倒だ。
“あーもー……だから俺も行ってやろうかって言ったのに……”
こうなってみると後悔ばかりが渦巻いて、俺はぼやいた。
ただチョコボに乗って移動してるだけなのに、心がどんどん疲弊していく。
こんなことなら、最初からあいつを引っ張って目的地まで連れていって、さっさと終わらせりゃよかったんだ。
――しかし。
そんな俺の愚痴に、瞬時に返ってきたあいつの言葉は……
“ヤダッ”
“あっはっはっはっは。ダン、嫌われちゃってるよ~?”
“うるせーぞ、外野ぁ!!”
俺は思わずリンクパールを睨みつける。
トミーは今、ミッションでパルブロ鉱山に行っている。
鉱山の中にある機械を使って、ミスリルの砂粒を採取する――そんな内容だ。
サンドリア出身のあいつにとって、鉱山は慣れない場所だろう。
しかも、ただでさえ方向音痴のあいつのことだ。
あいつが迷うことを、俺は確信していた。
俺自身は、そのミッションなんてとっくの昔に終わらせている。
それに、金儲けのために何度も鉱山へ通っているから、道順なんて完璧に頭に入っている。
だから、そう。
俺は言ってやったのに……あいつときたら。
“ダンに頼らなくたって、ミッションくらいできるんだからっ。誰の力も借りずに自分の力でやるのさ!”
――というわけだ。
その自立心は、誉めてやらんこともない。
だが、今の状況を考えれば、到底誉めてやる気にはならねぇ。
“だったら、俺に道聞かないで自分で探せ”
何を意固地になってんだ、あいつは。
少しムッとして、冷たい口調でそう言い返してやった。
“い、言われなくても探しますよ~”
どんな顔で言っているのか思い浮かぶ、不貞腐れた声。
俺がこうやって少しキツく言うと、トミーは決まってガキみたいに意地を張る。
すると、明らかに面白がっているパリスの声が弾む。
“あっはっは。ま~たいつものパターンだね♪”
俺はその声の発信源、青く光る真珠を睨みつけた。
俺は別に……俺があいつに色々と教えてやりたいわけじゃない。
トミーがリンクシェルで何か疑問を口にすれば、当然、俺以外のメンバーにもその声は届く。
つまり、俺が無視してたって、他の誰かが答えるわけだ。
でも、大抵真っ先に口を開くのが……この馬鹿エルヴァーンだ。
何を吹き込むか分かったもんじゃない。
ロエさんは控えめで、自分からはあまり前に出てこない。
パリスがくだらないこと言ってても、笑って聞いてるような、社交的な女性だ。
だから、結局俺が口を出す羽目になる。
それでトミーは、パリスの言葉は素直に受け取るくせに、俺の言うことにはやたら反発する。
で――言い合いになると、パリスの馬鹿がまた大喜びってわけだ。
……すげぇ腹が立つ。
面白くねぇ。
“もう、パールッシュドさんたら、またそうやって茶化すんですから……”
何か言ってやろうと思ったところで、ロエさんの声が入った。
真面目なロエさんは、パリスのことを丁寧に『パールッシュド』と本名で呼ぶ。
何がパールッシュドだ。偉そうな名前しやがって。
ロエさん、あんな奴はパリスでいいんですよ。
いや――もう人として扱う必要もない。
『ポチ』とか、そういうので十分だ。
ポチ……ポチて……。
よく考えたらすげぇな『ポチ』ってオイ。
……今度ばったり会った時にでも、そう呼んでみるか。
“ダン、君いま何か僕に対して失礼なこと考えただろ”
“別に何も”
じっと見つめてくる青い真珠から視線をそらして、俺は溜め息まじりに答えた。
“トミーさん、人がいたら……道を聞いてみてはどうでしょう?”
俺が《いつもの流れ》に疲れてきたのを察してくれたのかもしれない。
ロエさんが、まるで子どもに助言するようなやわらかい口調でそう言った。
トミーは“あ、そっか!”と頭の悪そうな声を出す。
するとまたしてもパリスの奴が便乗する。
“もしかしたら、トミーちゃんの好きなガルカさんがいるかも♪”
その一言に、リンクパールの向こう側にいるトミーの目が輝いたのが伝わってくる。
“うわっ、ガルカさんに道聞きたい!!”
……またガルカかよ。
よく分からんが、トミーはガルカ種族が大好きだ。
テンションが跳ね上がったらしく、トミーは張り切った声で“よーぅし”とか言っている。
その様子に、ロエさんとパリスの二人は微笑ましげに笑っていた。
少し改まった調子に変わり、パリスが言う。
“本当に無理だと思ったら言ってね。僕ぁバストゥークでバザーやってるから、すぐに行ってあげられるよ♪”
なんでお前そんな近くにいるんだよ……とか、思ったが喉の奥で留めた。
すぐにトミーが素直な返事を返す。
“ありがとうございます、パリスさん!でも……もうちょっと、頑張ってみます!”
それを聞いて二人が微笑んだのが空気で伝わった。
“ははは、まぁ、よ〜く地図見ながら進んでごらんよ。きっと見つかるから”
“頑張ってくださいね、トミーさん”
……二人がトミーを甘やかしている。
まぁいい。
俺には関係のないことだ。
俺はこれからジュノに行って、買い物して、狩りにも行かなくちゃならない。
トミーには優しい仲間がついている。
俺がわざわざ口を出す必要なんて、どこにもない。
肩を上下させて、大きく溜め息を吐く。
気持ちを切り替え、自分のことに集中しようと気を取り直す。
気が付けば、俺の乗ったチョコボはバタリア丘陵を走っていた。
――と、ようやく一段落ついたと思った矢先。
今までとは少し様子の違うトミーの声が、リンクシェルから滲み出てきた。
“あう……その……ごめんなさい”
不思議に思って、光る真珠を横目に見やる。
“地図買ってくるの忘れちゃったのぉぉぉ”
「っ馬鹿!!!!!」
リンクシェルは、ただ意識を向けるだけで会話ができる。
……だが、この時ばかりは思わず口に出して怒鳴ってしまった。
俺のいきなりの怒号に、チョコボがビクッと反応したのが分かった。
ーーその瞬間からだ。
パリスの『あっはっはっはっは!』という、規則正しい爆笑が止まらなくなったのは。
そのムカつく笑い声をBGMに、俺は怒涛の勢いで怒鳴った。
“何やってんだお前は!ちゃんと準備してから行けっつったろ!?忘れたんだったら、なんですぐに言わないんだよ!!!”
“あっはっはっはっは!あっはっはっはっは!”
“だ、だってダンが怒ると思…”
“あっはっはっはっは!”
“だからっておまっ……帰りはどうするつもりだったんだよ!?出られなくなったらどーするんだっつの!”
“あっはっはっはっは!あっはっはっはっは!”
“ま、まぁまぁダンさん……”
“あっはっはっはっは!あっはっはっはっは!あっは”
「パリスうるせぇぇぇぇぇ!!!」
あれから色々と怒鳴りまくった俺は、ある意味で気力を使い果たした。
言葉がどんどん溢れてきたがもうキリがない。
一旦、口を閉じることにした。
大ウケしていたパリスも、さすがに笑い疲れたらしい。
少しかすれた声でトミーを慰めようとしている。
“ト……トミー…ちゃん……そんな日もあるよ”
ゼェゼェと、まだ笑いをこらえたようなパリスの声。
あんだけ大笑いしておいて何言ってんだ、こいつは。
“だ、大丈夫ですか?無理しないでくださいね、トミーさん”
心配した声でトミーに呼びかけるロエさん。
めちゃくちゃ小さな声でトミーが呟く。
“……大丈夫です”
……ほらな。
いっつもこうだ、あいつは。
俺の頭の中は、ダルさと、面倒臭さと、呆れと、疲労感でえらいことになってる。
“……いいか、絶対に三階の奥には行くなよ!!”
これだけはと思い、俺は声を張った。
“分かりましたぁぁよぉぉー”
俺が言うと、返ってくるのはこの調子だ。
ほんっとに……可愛くない奴だ。
あいつ、まだチョコボにも乗れないんだぞ?
そのくせ、ろくに準備もせずミッションに行く。
おまけに馬鹿だ。
もし間違って鉱山三階の奥なんかに迷い込んだら、どうするつもりなんだ。
あそこにいるクゥダフたちは、今のトミーにはまだ強すぎる。
一匹に絡まれたら、次から次へと群がってくる。
あいつ一人じゃ、どう考えても無理に決まってる。
――何つーか、もう。
嫌になってきた。
深く、長い溜め息をついた。
無言で走り続けているチョコボの背で、俺はうなだれる。
ぬかるむ地面を力強く蹴りながら進んでいくチョコボ。
ふと、俺をちらりと見上げて疑問符を浮かべていた。
そんな目で見るな……。
あれから、青い真珠は何も言わなくなった。
妙に静かなそれが、何だか落ち着かない……。
俺はつい、横目で真珠の顔色をうかがってしまった。
トミー。
あいつは一体、何なんだ。
俺はとても理解できなかった。
どうすれば、あそこまでドジになれるんだ?
あいつはとにかく世間知らずで、行き当たりばったり過ぎる。
計画を立てるということを知らない奴なんだ。
……同じヒュームでも、ここまで違うもんかね。
年も、そんなに離れてないってのに。
あいつ、俺より二つ下って言ってたから――二十か。
自分のことは、自分でしっかりやれってんだ。
頭の中でブツブツと毒づいていたその時。
風に乗って、助けを求める声が聞こえた。
なんとなく視線を上げて風上の方を見やると、一人の魔道士が、数匹のクゥダフに追い回されていた。
「あー……」
モテモテだな、オイ。
遠巻きに見ながらだらだらとクゥダフの数を数えていると、その魔道士のもとへ、一匹のチョコボが駆け寄ってきた。
チョコボから、男が飛び降りる。
魔道士に迫りくるクゥダフたちの前に立ちはだかると、素早く剣と盾を構えた。
一目で分かる。――ナイトだ。
さすがナイト様、ってとこか。
……まぁ、俺もナイトになったんだが。
クゥダフ数匹くらい、あの人にかかれば、あっという間だろう。
俺の出る幕じゃない。
それに、獣人に追われて逃げたりするのも、重要な経験の一つだろ。
だから人情とか正義感だけですぐ助けに入るのも、どうなんだって思うんだが。
……もしここにトミーの奴がいたら、ギャーギャー騒いだかもな。
何となくそんなことを思って、苦笑いした。
頭の中には『それでもナイトなの!?』と、膨れっ面で喚いているトミーの姿。
内心、俺はそのトミーに『うるせ』と言い返した。
“あっ!”
何の前触れもなく、沈黙していた青い真珠からトミーの声が飛び出した。
“?……どうした?”
――まさか、クゥダフに絡まれたか?
身構えるように真珠をじっと見つめて、トミーの返事を待つ。
もし知らないうちに三階まで進んでいたら、クゥダフ一匹に絡まれるだけで命取りだ。
“なんかヘンな機械見つけたー!”
一気に色々なケースを想定してそれへの対応を考えていると、トミーの好奇心に満ちた声が聞こえた。
絡まれたわけじゃなさそうだが……。
ヘンな機械って、何だ??
彼女の声を聞きつけた他の仲間達も反応を返す。
“おっ、ついに見つけたのかな?”
“トミーさん。近くに強めのクゥダフがいるかもしれませんから、気をつけてくださいね”
パリスとロエさんが、どこか安心したような声をかける。
たしかに、トミーの言う《機械》がミスリルを取り出す装置なら、あれだけ苦戦していたミッションもようやく終わることを意味している。
“クゥダフ? 大丈夫ですよ~。ウサギくらいしかいませんから!”
好奇心に彩られたトミーの声。
“えーっと、何だろうこれ。砂利入れるところなんてあるのかな……?――あ、レバー発見!”
あいつがゴチャゴチャと言っていることを聞きながら、俺は必死に、自分がこのミッションをクリアした時の記憶を掘り返した。
どうにも、自分の記憶と照らし合わせると違和感がある。
多分、俺だけじゃない。
ロエさんもパリスも首を傾げてるんじゃないだろうか。
――ミスリルを取り出す機械がある場所にウサギ……いたか?
――あのあたりは確か、クゥダフがうろついていたはずだが……。
探求するトミーの声はどんどん届く。
“できたミスリルの砂粒は下に落ちるって、ダン、言ってたよね?これじゃ、川に落ちちゃいそうだけど……どういう仕組みになってるんだろ”
ーー何だって?
川??
川はねぇよ。
機械は鉱山の上層にあるんだ。
川はねぇ。
…………。
!!!!!
急にひらめいた俺は息を呑んだ。
その傍らでトミーの呑気な声が続ける。
“ちょっと怪しいなぁ……。一回、砂利入れないでレバー引いてみますね!”
干上がった声で俺は呼びかける。
“おい、待った”
パリスとロエさんも同時に声を投げかけた。
“あ~トミーちゃんそれは〜”――“駄目!”
俺達はようやく理解した。
トミーがいじろうとしているものは、お目当ての機械ではない。
でもあいつのことだから、言いながら実行してるに違いない。
さあっと血の気が引くのを感じる。
それは、ミスリルを取り出す機械じゃない。
ーーエレベーターだ!
そんなもんに乗ってレバー引いてみろ。
エレベーターが上がって、俺が散々警告してた危険な領域へご案内だ。
あの馬鹿ーークゥダフに集られるぞ!?
途端に響くあいつの絶叫。
“あぃやーーーーーー!?”
固唾を呑む俺達の声。
“どうした!?大丈夫かっ!”
“おやおや??”
“トミーさん?!”
“床が上ってっちゃったーーーー!”
「お前は乗ってないのかよ!!!」
パリスの規則正しい笑い声、再放送開始。
……その後、どうなったかと言うとだ。
パリスの奴に‟ダンはジュノに行くんじゃなかったのかい?”と聞かれ、そこで初めて自分がグスタベルグにいることに気が付いた。
おかしい。
俺は確かに、ジュノに向かっていたはずだった。
なのに気が付けば、パルブロ鉱山に向かってチョコボを走らせてる。
あのときチョコボが俺に向けていた、あの疑問の眼差し。
……ようやく納得がいった。
魔道士がクゥダフに追いかけられてるのを見た時点で気付けよ、俺。
サンドリアからジュノに向かう途中で、クゥダフを見かけるわけねぇだろが。
……まぁいい、この際だ。
あいつのところに行ってやるか。
嫌がろうが何だろうが、見つけ出して連れ戻す。
じゃないと、どうにも他のことに集中できねぇ。
――そんなわけで。
鉱山の中に入りトミーを見つけ出した俺は、さっさとミスリルの砂粒を手に入れさせて、ギャーギャー喚くあいつをバストゥークまで連れて行ってやった。
なんでこうなるんだよ。
いつも、いつも、いつも。
あいつのおかげで、今日も予定がメチャクチャだ。
どうしてあいつは、こうも俺を振り回す?
俺は、他人を構ってるヒマなんか、ねぇんだよ。
「……あいつと出会ってからロクなことがねぇ」
レンタルハウスに戻った俺は、ベッドに仰向けで寝転がって、天井を見ながら一人つぶやいた。
時間的にはまだ早い。
でもこのまま、もう眠ってしまいたい。
……けど、無理だ。
今日もまた、あいつに振り回された自分に腹の虫が治まらない。
目が冴えてしまい到底眠れそうにない。
色々と疲れ果てた俺は、今日のところはバストゥークで一夜を明かすことにした。
本来なら今頃、ジュノで狩りを終えて一杯やってる予定だったのに。
結局――今日も、あいつの面倒で一日潰れたじゃねぇかよ。
――コンコンッ。
静かな部屋の中に、ノックする音がやたら大きく響いた。
……あーもー、誰だよ。
俺は何のためらいもなく、居留守を決め込もうとした。
――と、そこで。
机の上に置いてあった青い真珠から声がした。
“ダン。まだ……起きてるよね?”
あいつの声だ。
……今度は何だ。
俺は少しの間、疑わしげに真珠を見下ろし、それを手に取った。
“……あぁ、起きてる。ちょっと待ってろ”
素っ気なく返してから、ゆっくりとドアの前に立つ。
がしがしと後頭部の髪を引っ掻いた。
じっとドアを見つめ――静かに開ける。
ドアの向こうには、満面の笑みで俺を見下ろす男がいた。
「やぁやぁ、今日はお疲れ様♪ これから一杯飲みっでゅ!?」
渾身の力を込めて、パリスの横っ面に握り拳をブチ込んだ。
ねじれて吹っ飛ぶエルヴァーン。
いや、理不尽なことは自覚してる。
だがタイミングが悪すぎたお前が悪い。
ドアをバタンと閉めて鍵をかけると、俺は真珠に向かって問いかける。
“……で、なんだ?”
すると、まるで俯いて手元をいじっているような、くぐもった声でトミーが言う。
“えっとね……今日はありがとう。また、手伝ってもらっちゃったね……”
意地を張ったり、素直に礼を言ったり。
何なんだ、もう。
俺は思わず片手で目元を覆う。
しかし、なぜだろう。
その声を聞いた瞬間、俺の中に少しだけ安心が広がった。
ついさっきまでの嘆息とは違う。
外から帰ってきた時、無意識についてしまうような――安堵の溜め息が零れる。
“……いや、いい”
俺は一言、そう答えた。
どうしていつもこうなるんだ。
俺はいっつも、あいつに振り回されて。
自分の予定を潰して、イライラして、疲れて、文句ばっか言って。
それでも――
最後に俺を満たしているのは、満足感なんだ。
あとがき
はじめましての方も、いつも読んでくださってる方も、こんにちは。この度は『どちらへ?』を読んでいただき、本当にありがとうございます!
こちらの読み切りは、村長ワールドの原点となる作品です。
本編では
第一章でダンが「あること」を自覚し、
1.5章で色々と試され、
第三章では、《ある意味:最強》のトミーに振り回されて、とんでもない目に遭っています(笑)
ちなみに第二章ではガラリと雰囲気が変わり、ビックリするほど重い『渇望』と『希望』を描いています。
私の作品は、ミッションをクリアしていく冒険ものというよりは、FF11の世界をお借りしたヒューマンドラマに近いかもしれません。
知性を感じないギャグ、心がちょっとやられるような絶望感、じれったい人間関係など……何でもアリな感じで書いています。
もし今回のお話をきっかけに、「この世界、ちょっと面白いかも」と思っていただけたら、他のお話も読んでいただけると、とても嬉しいです。
ではでは、最後までお付き合いくださり、本当にありがとうございました!